2024年9月13日 13:53 (2024年9月13日 15:20更新) [会員限定記事]
【シリコンバレー=山田遼太郎】米新興企業オープンAIは12日、数学的思考力を高めた新たな人工知能(AI)を発表した。文章生成などの速さを売りにしてきたAIに「熟考」させることで、複雑な問題を解けるようにした。人知をしのぐAIの実現に向けた一歩と位置づけている。
同日から「o1(オーワン)」の提供を始めた。オープンAIの「Chat(チャット)GPT」を裏側で支える大規模言語モデル(LLM)と呼ぶ技術の一種だ。チャットGPTの有料利用者は新技術のo1と従来の「GPT-4o」の大きく2つのLLMを用途で使い分けられるようになる。
物理や化学で博士の点数上回る
オープンAIは2022年11月にチャットGPTを公開した。段階的にLLMを改良してきたが、今回のo1はこれまでの「GPTシリーズ」と大きく異なる。
まず得意分野だ。オープンAIはo1を数学や科学、プログラミングといった論理的思考が必要な問題に特化したAIとして開発した。従来のAIは数学が苦手とされてきた。
改良版のo1は、物理や化学、生物の専門知識を測る試験で博士号取得者の点数を上回ったという。高校生らが参加する「国際数学オリンピック」の米国予選の問題を解くと正答率が8割と、通過基準を優に超えた。
一方、その他の多くの領域ではGPT-4oの方が性能が高い。o1は現時点で画像や文書ファイルを読み込む機能がなく、ネット上の最新情報の収集にも対応していない。
回答を生成するスピードにも違いがある。例えば「英語のつづりの前から3番目にAの文字がある国名を5つ教えて」と指示を出すと、GPT-4oは3秒で答えるが間違いを含めてしまう。o1は回答に32秒と10倍以上の時間をかけて、正しく答えようとする。
o1は回答をつくる前に多くの計算をこなすためコストが高い。個人がチャットGPTの中で利用する分には追加料金は必要ないが、企業などが「アプリケーション・プログラミング・インターフェース(API)」と呼ぶ仕組みで利用する場合の価格はGPT-4oの3〜4倍に設定した。

チャットGPTと異なる開発手法
なぜ数学が得意になったのか。理由は、従来のチャットGPTと大きく異なる開発手法にある。
同社がo1に使ったのが「強化学習」だ。AIに自ら試行錯誤させ、よりよい回答に何らかの「報酬」を与えることで性能を高める手法を採用した。学習するデータ量が少なくても回答の正確性を高められるとの期待がある。
オープンAIが今回の技術をGPTではなくo1と名付けたのもこの手法の違いによるものだ。GPTはGenerative Pre-trained Transformerの頭文字で、「事前学習済み」の意味がある。o1と対照的に大量のデータをAIに読み込ませて精度を上げる方法だった。
もう一つが「思考の連鎖」だ。人間の思考法と同じように、AIが取り組む課題をいくつかの段階に分け、順序立てて処理させる。o1の回答に時間がかかるのはこのためだ。利用者に答えを示す前に、質問や指示の意図に沿っているかや、不適切な内容を回答に含めていないかを自ら検証している。
o1は強化学習と思考の連鎖の組み合わせにより、従来のAIと比べて「じっくり考える」ようになった。回答に時間をかけるほど性能が高まるといい、オープンAIのチーフサイエンティスト、ヤクブ・パチョッキ氏は「AIを強化する新たな枠組みだ」と話す。
オープンAIはo1について、物理や化学などの研究者やソフトウエアエンジニアらの利用を想定する。一定の思考力を備えて「自ら考える」AIの登場は科学の進歩につながる可能性を秘める。
グーグルなど各社が開発競う
競争は激しくなっている。
オープンAIの対抗馬である米アンソロピックは、開発するAI「クロード」の最新モデルが「複雑な作業に人間のような理解力で対応できる」としている。米グーグルのAI研究開発部門、グーグルディープマインドは生体内の分子構造を高精度に予測するAI「アルファフォールド3」を開発し、創薬や医療に生かそうとしている。
グーグルやメタ、アマゾン・ドット・コムなど米テクノロジー大手との投資競争も激しくなっている。オープンAIは提携する米マイクロソフトや米アップル、米半導体大手のエヌビディアを含む投資家から増資で9000億円規模の資金を集める交渉中だと報じられている。
o1のような新たな開発手法に取り組みつつ、半導体やクラウドへの投資規模がものを言う従来のLLM開発でも先行優位を保つ算段だ。
挑む人知超え、慎重論も
オープンAIは幅広い知的作業を人間より高い水準でこなす「AGI(汎用人工知能)」の開発を目指し、o1はその実現に向けた一歩と位置づける。
AI研究の第一人者、モントリオール大のヨシュア・ベンジオ教授は「論理的思考や数学的能力がAIと人間の大きな差だ」と指摘しており、o1のようなAIがその隔たりを縮める可能性がある。
オープンAIは「o1はAI独自の思考をさらに発展させていくことが可能だ」(パチョッキ氏)とみる。
一方で、AIが人間のように考える能力を備えるかについては見方が分かれる。
有力AIスタートアップ、米ハギングフェイスのクレマン・デラング最高経営責任者(CEO)はo1について「AIは単に情報処理や予測の実行をしているだけだ。AIが人間であるかのような印象を与えるのは安いマーケティングにすぎない」と話している。

